俺達が階段エリアで待機を続けてから数時間後、ロシェの気配が段々と近づいているのを感じた。
どうやら向こうの方から合流しに来てくれたらしい。正直戦力的に不安だったので有り難かった。一応怪我などしていた時の為に回復薬などを準備して、ロシェが来るのを待っていると、予想に反して複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。『アキツグ、大丈夫・・そうね。安心したわ』
「アキツグさん、良かった。無事だったんですね」 「あぁ、テントで休んでいるけどミアも無事だよ」 「おぉ!姫様も御一緒だったのか。守って頂いたこと感謝する」やってきたのはロシェだけではなく、カサネさんやゴドウェンさん達も一緒だった。
聞いたところどうやら俺たち二人以外は同じところに飛ばされたらしい。 だが敵地のど真ん中に飛ばされてしまい、殲滅するまでにかなりの時間が掛かってしまった。幸いにも大きな被害は出なかったため、少し休憩を取った後で俺達を探しに来てくれたという話だった。「あっ!皆来てくれたのね!」
話し声で起きたらしい。ミアがテントから出てきた。
「姫様、ご無事で何よりです。すぐに合流できず申し訳ございません」
「あんな罠に掛かったんだもの。仕方ないわよ」 「ミアさんも無事で良かったです」 『おはよう。アキツグに変なことされたりしなかった?』 「ちょ!ロシェ、変なこと言うなよ。するわけないだろ?」 「あははっ!大丈夫よ。しっかり守って貰ったもの。二人もありがとうね」それぞれがミアに声を掛けている。兵士さん達もミアの無事にほっとしている様だ。俺はロシェの揶揄いに反応したせいで変な目で見られてしまったが。。
全員が合流できたところで、まずは王城まで戻ることになった。 戻る途中で気づいたことだが、ロシェ達は二十一階層、俺達は二十二階層にそれぞれ飛ばされていたらしい。酷い罠だったが、転送先が近かったのがせめてもの救いだった。 二十二階層であれだけ苦労したのだ。さらに下の階だった場合、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。 そんなことを考えていた俺の表情に気づいたのかカサネさんが声を(厄介だな。あとどれだけ攻撃すれば倒せるのかも見当がつかないし、長期戦になるとこっちが不利だ。何か弱点とかないんだろうか?)そう思って観察してみるが、パッと見にはそれらしきものは見当たらない。 まぁ、簡単に分かるようなものがあれば誰かが気付いているだろうから当然と言えば当然なのだが。 そんな俺の様子に気づいたのかロシェが近づいてきた。『手が止まってるみたいだけど、どうかしたのアキツグ?』 「いや、何か全然ダメージが通ってる気がしないからどこかに弱点でもないかと思ってさ」 『あぁ、なるほど。確かに結構な攻撃を受けてるはずなのに見た目的にはほとんど変わりないものね。魔法生物だから、見た目そのままかは分からないけれど』 「実は効いてるかもしれないってことか?」 『可能性としてはね。でもあのゴーレムは動きが鈍くなったりもしてないし、期待は薄いかしら。ほら、こっちが手を止めちゃってるからまた向こうに倒れこみを仕掛けてるわよ?』ロシェの言葉に振り向くとまさにゴーレムが向こう側に倒れこんだところだった。 だが、その光景に僅かな違和感があった。「なぁ、今ゴーレムの背中が膨らんでなかったか?」 『え?よく見てなかったけど、気のせいじゃないの?』言われてロシェが目を向けた時には特におかしなところは見当たらなかった。 しかし、気になった俺は再びゴーレムが倒れこみの動作に入ったタイミングで、先ほど気になったあたりに狙いを付けてライトニングの魔弾を撃ち放った。 「ダァン!」とゴーレムが地面にぶつかった音が響くのとほぼ同時に、アキツグの放った魔弾がゴーレムの背中の一部に着弾した。 その瞬間「ギギギギィ!」とゴーレムから異音が鳴り響いた。「なんだ!?」見るとゴーレムが衝撃を受けた様にその鉄の表面を震わせていた。だがすぐにそれも収まり通常の状態に戻った。 良くは分からないが、何らかの効果はあったらしい。一応起きたことを大声で全員に伝えた。「皆さん!倒れこんだ直後にゴーレムの背中に膨らみができていました。今のはそこにライトニングを当てた結果です。もし
人数が増えたこともあり前回の二十二階層まではスムーズに降りてこれた。 幸いダンジョンの構造変化も起きていない。こんなダンジョンで一からやり直しは勘弁してほしいので本当に今回で終わらせたいところだ。 罠については、前回の反省から複数個所に罠が設置されていても別々に作業するのは無しとなった。多少時間は掛かるが安全第一だ。 そうして交代や休憩を挟みながら探索を進め、四日目に入ったところでとうとう三十階への階段に辿り着いた。「よし、最終確認だ。前衛は守りに専念、物理攻撃はほとんど通らないだろうから無理に攻撃する必要はない。後衛は狙われないようにしながら魔法で攻撃してくれ。 ゴーレムの一撃は強力だ、もし狙われた場合は回避を優先しろ。肝心なのはここのゴーレムは通常とは異なる可能性が高いということだ。最初は対ゴーレムの基本戦術で対処するが、状況に応じて臨機応変に対処するように」ゴドウェンさんの話を皆が真剣に聞いていた。 その後もいくつか細かな点の質疑応答が行われ、確認を終えたところで階層ボスとの戦闘を開始することになった。「いくぞ!」ゴドウェンさんが三十階層への大扉を開ける。 そこは広々とした円形のフィールドになっており、その中心に鈍く銀色に輝く鉄の塊が鎮座していた。俺達が展開しながら近づいて行くと、敵を認識したのか人の数倍はあるだろうその鉄の塊が動き出し巨人のような姿を露わにした。「あれは・・・アイアンゴーレムか?」 「そうみたいね。通常と同じであれば弱点は火や雷のはずだけど・・・」確かに見た目はまさに鉄でできたゴーレムという感じだった。相手はこちらの出方を伺っているのか動く様子はない。そうしている間に距離が近づいて行き、前衛の兵士達がシールドバッシュを仕掛け注意を引いたのが開戦の合図となった。 ゴーレムが目の前の相手を押し潰そうと腕を振り上げ、そのまま今度は振り下ろす。 兵士たちが急いで退避した場所にその巨大な拳が叩きつけられ「ガァンッ!」と巨大な音がした。その衝撃で地面が揺れる。ゴーレム同様に頑丈なのか叩きつけられた先の地面には凹みもできていない。「フ
俺達が階段エリアで待機を続けてから数時間後、ロシェの気配が段々と近づいているのを感じた。 どうやら向こうの方から合流しに来てくれたらしい。正直戦力的に不安だったので有り難かった。一応怪我などしていた時の為に回復薬などを準備して、ロシェが来るのを待っていると、予想に反して複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。『アキツグ、大丈夫・・そうね。安心したわ』 「アキツグさん、良かった。無事だったんですね」 「あぁ、テントで休んでいるけどミアも無事だよ」 「おぉ!姫様も御一緒だったのか。守って頂いたこと感謝する」やってきたのはロシェだけではなく、カサネさんやゴドウェンさん達も一緒だった。 聞いたところどうやら俺たち二人以外は同じところに飛ばされたらしい。 だが敵地のど真ん中に飛ばされてしまい、殲滅するまでにかなりの時間が掛かってしまった。幸いにも大きな被害は出なかったため、少し休憩を取った後で俺達を探しに来てくれたという話だった。「あっ!皆来てくれたのね!」話し声で起きたらしい。ミアがテントから出てきた。「姫様、ご無事で何よりです。すぐに合流できず申し訳ございません」 「あんな罠に掛かったんだもの。仕方ないわよ」 「ミアさんも無事で良かったです」 『おはよう。アキツグに変なことされたりしなかった?』 「ちょ!ロシェ、変なこと言うなよ。するわけないだろ?」 「あははっ!大丈夫よ。しっかり守って貰ったもの。二人もありがとうね」それぞれがミアに声を掛けている。兵士さん達もミアの無事にほっとしている様だ。俺はロシェの揶揄いに反応したせいで変な目で見られてしまったが。。 全員が合流できたところで、まずは王城まで戻ることになった。 戻る途中で気づいたことだが、ロシェ達は二十一階層、俺達は二十二階層にそれぞれ飛ばされていたらしい。酷い罠だったが、転送先が近かったのがせめてもの救いだった。 二十二階層であれだけ苦労したのだ。さらに下の階だった場合、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。 そんなことを考えていた俺の表情に気づいたのかカサネさんが声を
幸いにもこの階の罠は探知可能だったため、さきほどの様な二重トラップに掛からない限りは罠の危険は回避できそうだった。 魔物についてもダンジョンの魔物が特殊なのかは分からないが、相手に先に気づかれるようなことはほとんどなく、何とか敵の少ない道を選んで進んでいった。 しかし、二人しかいない状況では最低限の敵とは戦わざるを得ない。 ミアは今日も既に何体かの敵を倒していた状態でこのような事態に陥っていたため、精神的な疲労は結構なものになっていた。 そうして何度目かの戦闘時、意図せず集中を乱したミアの魔法は標的を外してしまった。「あっ!」躱す必要の無くなった魔物はそのままエルミアに襲い掛かってきた。「きゃっ」 「ミア!」直前でそれに気づくことができた俺はミアに体当たりする形でその攻撃からミアを庇った。「ぐっ!」魔物の振り下ろした剣が俺の左肩から胸元辺りを切り裂く。 痛みに耐えながらもなんとかその相手に魔銃を突き付け、至近距離からの魔弾を叩き込んだ。「アキツグ!大丈夫!?っ!・・・エアスラッシュ!」ミアは俺の心配をしつつも、残りの一体に対して今度こそ魔法を命中させて打ち倒した。だがその時、不運にもその先の通路から別の魔物達がやってきて俺達に気づいてしまった。しかも数が多い。出てきたのは四体だった。 それが見えた時点で俺は仕方なく切り札を切った。ちりんちりんと場にそぐわない軽やかな鈴の音が響く。その音の魔力からゴブリンロードの影が現れた。「あいつらをここから先に通すな。ミア、逃げよう」 「え?う、うん」事態の急激な変化に戸惑いを見せるミアを連れて、元来た方向へ足早に撤退した。逃げる間にもバッグから取り出した回復薬を傷口に振りかけ残りを飲み干す。 しばらく道を戻ったところでようやく一息ついた。恐らくもうそろそろ影が消える頃だろう。影を見失ったあいつらがこちら追いかけるようなことをしなければいいのだが・・・「アキツグ、傷は大丈夫?」足を止めたところでミアが心配そうに声を掛けてきた。「あぁ
翌日、午前中は進み午後になったら戻るという方針に決まり、俺達は二十階層まで進んでいた。 進む先にまた前方の両壁にトラップが仕掛けられていたため、俺とカフェスさんの二人でそれぞれ罠の解除を試みていた。 そして先に右壁のトラップを解除し終えたカフェスがあることに気づいた。解除したトラップの裏側から地面を伝って導線の様なものが伸びていたのだ。「これは・・・?・・・!?アキツグさん、ちょっと待って下さい!」 「えっ?」ちょうどそのタイミングで俺は左壁のトラップを解除した。 すると突然足元に魔法陣が現れて目が眩むような輝きを放った。「・・・っ。いったい何が・・・ここ、どこだ?」目を開けた時には先ほどとは異なる通路に居た。 辺りを見回したが他の人達の姿はなかった・・・一人を除いて。「ミア、大丈夫か?」 「う、ん。アキツグ?何が起きたの?突然目の前が真っ白になったけど・・・」俺が声を掛けるとミアも目を開けて俺に疑問を投げかけてきた。 やはりミアも何が起きたのか分からない様子で周囲をきょろきょろしている。 そして俺以外が近くに居ないことが分かると徐々に表情を青褪ざめさせた。「落ち着いてくれ。多分だけど、何らかのトラップが発動したんだと思う。一瞬だったが、壁のトラップを解除した瞬間に別のトラップの反応が出現したんだ。気づいたと思うが、ここには俺達しかいないらしい」 「それってやっぱり分断されたってことよね?場所もさっきと違うみたいだし」 「あぁ、ダンジョンだから分かりづらいけど、ロシェも別のところに飛ばされたみたいだ。向こうの方が固まってくれていたらいいんだが」ロシェの気配は俺達が居る階層より上の方にあった。何とか合流したいところだが今いるのがダンジョンである以上、場所が分かったからといって簡単には辿り着けないところが難しい問題だった。「そっか。アキツグにはロシェの気配が分かるんだったわね」ロシェのことを聞いて多少なりときっかけを得たミアは、そこですぅはぁと深呼吸をして自分を落ち着かせた。「それならまずは、
二日目は再び一階からであったが内部構造は変わっていなかったため、八階層までは最短経路で進むことができ、その日は十五階層まで来たところで野営をすることになった。「このダンジョンは十階層ごとのボスは居ないんですね」 「あぁ、ボスが出るのは最下層の三十階だけだ。ただ、この先の十五階層以降はさらに敵の強さが一段上がるから、簡単には進めなくなる」 「何回か潜り直すという話でしたが、今後の予定などは決まっているのでしょうか?」カサネがそう聞くとゴドウェンは難しい顔で考えながらも答えた。「いや、その辺は状況次第な部分もあるからな。とはいえ、姫様も思いの外調子が良さそうだし、この様子なら明日もう一度戻って交代要員などを整えれば次のトライで最下層まで行けるかもしれない」 「だから言ったじゃない。つい最近だってアキツグ達と野営も経験してたんだから、このくらいでへこんだりしないって」ミアは自慢げに答えた。そういえばあの時はまだはっきり王女様だと分かっていたわけではなかったが、文句も言わず安物のテントで休んでいたな。「確かに姫様の胆力を見誤っておりました。しかし、ダンジョンでの野営は外での野営とはまた異なります。一日中空も見えない地下空間を魔物や罠と戦いながら進み続けなければなりません。日を重ねるほど辛くなっていくものですから、ここから先はより一層気を引き締めなければなりませんぞ」 「分かってるって。若いころお父様も苦労したって言ってたし、そんなに簡単に終わるとは思っていないもの」ゴドウェンの忠告にミアは軽く頷きつつそのように返事をした。 その態度にゴドウェンは少し懸念を覚えたが、こればかりは実際に体感して貰うしかないと考え、話題を変えることにした。「それならばよいのですが。お二人とロシェッテ君もありがとうございます。 戦闘能力もですが、特にカサネさんの継戦能力は素晴らしい。魔術師は魔力の制限があるはずですが、カサネさんからはそんな様子が全く見えない」 「それは複数の魔力消費軽減効果のおかげです。魔力もそれなりに高い方だとは思いますが、流石にその効果なしにはこんな頻度で使用はできませんよ」 「な